「……味がしねえ」
そう言って皿を叩き落としたのは何度目のことか。一切れ齧っただけのチェリーパイと、名も知らぬ――覚える気もなかったコックの首が、ぐしゃりと床に落ちて鮮やかな赤を撒き散らした。
「あーあ、勿体ねえ。食べ物を粗末にするんじゃねえよ」
足下に渦巻く闇から亡霊がゆらりと立ち上がる。亡霊は生前と変わらぬ調子で、血に塗れた裏切りの夜などなかったかのように、ティーチの肩を抱き親しげに笑う。親友"だった"と、人は二人をそう形容するのだろう。おかしな話だ。そうするしかなかったから殺しただけで、今も変わらず愛しているのに。この男も、自分たちが父と慕った人のことも。
手にかけたことを痛いとすら思わなかった――それなのに。二つ目の悪魔をこの身に宿した日からずっと、チェリーパイは砂を噛むような味がして、闇の裡には亡霊が住み着くようになった。
「……なんでだ。なあ、最後の時みてえに」
お前の心臓を抉り出した、あの時のように。
「もっと、おれが許せねえって顔、しろよ……」
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img SONG:最後の花弁 (The meaning of love)/EGOIST
前提1:悪魔の実の継承/簒奪の条件は前任者の心…を喰らうこと、という解釈
前提2:サッチは実を奪われそうになった際に咄嗟に抵抗のため実を食べたという妄想
膝に矢を受けて咄嗟に書いたものなので、いずれもっと長めの話を書きたいです
前提1及び2があった上で、FF14における暗黒騎士の”英雄の影身”は前任の暗黒騎士の姿形をしているので、ヤミヤミの実もそうだったらいいのにな~という妄想でした