温い痛みを感傷が緩くかき混ぜて、初恋と呼ぶには儚すぎた夢は終わった。僅かな寂寞と共に、ハリーは束の間のまどろみから目を覚ます。
「……ずるいひとだな」
代わり映えのしない闇祓い局の執務室。目の前には、うず高く積み上がった未決済書類の山がある。椅子に座ったまま眠りに落ちたせいで、凝り固まった肩を回すとパキパキと肩甲骨の軋む音がした。
日々は変わらず回っていく。あと数時間後には喪服を取りに一度帰宅して、部下の葬儀に参列する予定だ。左手の指輪に込めた誓いに偽りはない。妻と、子どもたちの待つ家にいつだって帰りたいと願っている。それでも――戦い続けることを選択したその果てで、自分はロクな死に方はしないだろうという予感も確かにあって。
「生きるよ。……生き抜いて会いに行く、迎えに行くから」
その時はベールの向こうへ手を伸ばそうと、ハリーは誓う。
少年はあの別離の日に取り残されたまま、塞がることのない傷と共に走り続ける。英雄という生き方があるのならば、それは本来、人の身で背負うべきではない業なのだろう。
ただ――ただ尽きることのない愛情が背中を押してくれる。
その愛は見果てぬ呪いでもあり、永遠として切り取られた、彼の人の思い出の証左でもあった。
Heros last mement/