掌編まとめ① - 8/8

 

翌朝記憶は消えないタイプ
生存if 酔いどれあざと不死鳥と様子のおかしいイゾウさんfeaturing.忍者海賊侍ミンク同盟

 てしてしと、猫の感情表現のように尾羽根が畳を打つ。
「や!」
「いや……や、じゃなくてだな」
 ぎゅうと巻き付いてくる腕はふにゃっふにゃで、赤子でも抜け出せそうなほど力が入っていなかったが、それを無碍に振り解くなどということはイゾウにはできなかった。惚れた方の負けとはよく言ったもので、もう三十年もこの男には振り回されつづけている。
「やだ」
「ちょっと世話になった奴らに挨拶するだけだ。すぐ戻るから……な?」
「やだったらやだよい」
 ここにハルタあたりがいれば収拾が付くのだが、残念ながらこの海のどこかで存命だということしかわからない。よって四十過ぎのオッサンたちの修羅場或いは愁嘆場に首を突っ込む物好きはこの場にはいない。忍者海賊侍ミンク、そわそわと様子を窺うか我関せずで宴を続行するかの二択である。
「なあ……おい、マルコ――」
「おいてったらゆるさねえから……」
 酒精に紅潮した頬を、ついにはらりと涙が伝い落ちる。討ち入りが勝利に終わり、救護所で再会を果たした時から少しだけマルコの様子はおかしかった。ああ――そうか、置いて逝こうとしたから。酔ったとはいえこんな子どもじみた駄々のこね方をするところは初めて見た。その理由に、納得が行った。
 そうして、どれほど深く愛されているかを噛みしめる。終わりが見えているのに関係を持ったのは、生半可な気持ちからではなかったが――あの島に独り、遺す羽目にならなくてよかったと、今は心の底からそう思う。どろりと胸の裡で重く澱む、愛着は過日の淡い初恋を抱いたまま、歪な欲の形をしている。
「……よし。祝言あげよう、オヤジの墓前で」
 涙を掬って唇を奪う。「破廉恥でござる!」「いやアンタも酔ってんのかい!」と周囲が騒がしくなるのもどこ吹く風、いよいよ何を言い出すかわからない幼馴染を小脇に抱え、イゾウは宴を中座したのだった。