きみのすべて
(生死逆転if/「お前の助けを待ってた」失敗エンド)
ドンッ! と続けざまに響いた銃声が二発。己の放った弾丸は確かに敵を射抜いた。あと一歩でも速ければという、後悔と共に。
「あ……あ、あぁッ……マルコ……!」
本当に、あと数瞬だったのだ。
伸ばした手が届くより先に、目の前で鮮血が飛び散っていた。傷つき果てた体から蒼炎が噴き上がることはなく、今も尚――腕の中で、命の温度と重さが失われていく。
「ごめん、な……ちゃんと、助けられて、やれなくて……」
「やめろ……頼む、逝くなッ! 行かないでくれ……!」
形勢の不利は承知の上だった。誰がいつ、どこで死んでもおかしくはなかった。覚悟はしていたはずだ。命まで懸けて力を貸してくれた、その結果として起きる最悪の事態ならば想定はした。自分があの日、船を降りることなくマリンフォードで戦ったのと同じ気持ちでここにいるのだと。たとえ今日命を落とし、その先で果たせない願いがあったとしても悔いはないから仲間のために、当たり前にすべてを懸けるのだと――なのに。
到底、受け容れられるわけがない。
だって誰よりも守りたかった。
それだけが――唯一の指針を喪い当て所のない海に遺された二十余年を、生きていてもいいと思えた理由だったから。
「イゾウ」
頬に触れる手が、世界で一番あたたかいと、そう思っていた手が。
今は氷のようにただ、冷たい。
再生の炎を分け与えようとするその指先からは何も、灯ることなどなく滑り落ちて、そして。
「――……あいしてる」
そう呟いて、それきり。
幻想の鳥は権能を失い、後にはただ、物言わぬ骸だけが残された。