ハッピーエンド
(後追い心中エンド)
合わせに差し入れた手のひらがひたりと触れた体はまだ確かにそこにあるのに、ほんとうにすこしも、心臓の拍動が伝わってきやしなかった。不思議だと、絶望よりも先に胸の内を埋め尽くしたのはそんな感慨だ。この腕を翼に変えて落城の炎の中へと連れて行った、少年の頃から何度も共に空を駆けた、その命の重さを、ほんのまばたきほどのつい先刻のように憶えているのに。
首を傾げながらも手繰る指先に冷たい金属の感触を覚えると同時に、倦怠感に体がぐらつく。そのことに――マルコは心の底から安堵した。ちゃんと、約束を守ってくれた。一発きりの海楼石の弾丸。もしもの時は共に逝こうと、二年前、敗走の途でうわごとのように口にしたその約束を、イゾウも覚えていてくれた。
「……本当はちゃんと、お前の手で殺してほしかったけど」
誰の命にも保障の効かぬ戦場で、それは贅沢というものだろう。許してやるよい、と色を失った唇に生涯最後の口づけを贈った。死後硬直に凍てついた指を解いて抜き取った銃に、覚束ない手で弾丸を込めて――幸せだと、目を閉じる。
もう誰も、何も、喪わずに済むのだと――……。