prologue
わたしたちだった、わたし。
同世代の子どもはひどく幼く感ぜられた。
お決まりの綺麗事、虚飾と退廃を繰り返しては戯れのような言葉ばかり重ねる大人たちを、とんだ腰抜けだと思っていた。
要らないものを排斥するのは当然の摂理なのに、誰も彼も覚悟が足りない。
わたしの、わたしたちだけの繭の中。高貴なる由緒正しきブラック家。まるでティル・ナ・ノーグ。約束されたその安寧と共に、わたしはただ永遠でありたかった。
純血の一族を統べ君臨する視座にあこがれた。
きっと意味もわからずにその位置が欲しかったのだろう。途方もない夢を見ていたわたしを打ちのめした男が、生涯で二人だけ存在する。
ひとりは、昏く深い闇に誘い出し、生を与えてくれたあの御方。彼のための殺戮は、呼吸をするよりずっと楽になれた。
――もうひとりは、憎くて妬ましくて踏み躙りたくて、愛おしくて堪らなかった従弟。誰よりも燦然と輝くはずだった一等星。わたしがどんなに望んでも手に入れられない特別な地位を卑しい血の、唾棄すべき友情なんかのためにあっさりと捨てた愚か者だ。
「ベラ姉様」
「なに」
「南へ渡る鳥が還らないことってあるのかな」
「……さあね。お前が知る必要のないことよ」
あの男が昔から、それこそわたしのかわいいお人形だった頃から、外の世界への憧れを抱いていると知っていた。
それでもわたしたちは、星の名を持つ者は、この箱庭から空へ落ちることなどできるはずがないと”わたしたち”だったわたしは信じていて――……。
「最後まで愚かな男ね。お前がいないのに、わたしは誰を憎めばいいのよ」