chapter:3/黄昏に花開く
死闘の果てに権能と悲願とを手放して、エメトセルクは永きに渡る生を終えた。
とはいえ――それですべての荷をおろす訳にもいかず、暫くは降りた舞台を見守っていた。自身の死後、エリディブスと光の使徒が衝突することはわかっていたからだ。十四人委員会のクリスタルはそのために託した訳ではなかったが――独り残してしまった同胞と、未来を継いでいく新しき命との決着を、見届けるまでが己の責務だろう。
第十四の座が司る術式は、その持ち主によって正しく発動した。月へ追いやられた英雄は決戦の地に舞い戻り、そうして、心を取り戻した少年はクリスタルの塔に封印された。
これでようやく眠れる、と息を吐く。深く昏い星の海へと降り立ち、後は冥界の沙汰を待つばかりだ。永遠のような一瞬を幾度となく繰り返して、微睡みはじめたそのとき。
――ごめんね、ハーデス……。
一度として呼ばなかったエメトセルクの真名をひどく弱々しく零す、彼女の声が聞こえた。まるで、死にゆく間際の祈りのように。
同時に、本来のアゼムの召喚術とは比べ物にならないほどの弱さで道が繋がる。それは物質界とエーテル界との隔たりを打ち砕くには足りない、とても細い道だ。しかし手繰るに充分な、強い思いで編まれていた。
手繰らないという選択肢は、なかった。
「まったく……二度も人を死の淵から叩き起こすとは……人使いが荒いにも程があるぞ、英雄様」
世界の理に背き、生者と死者を分かつ境界を飛び越える。
召喚者の座標に辿り着いたエメトセルクが目にしたのは、あまりに凄惨な光景だった。生前の調子で皮肉を述べたものの、内心は言い知れぬ不快感にぐらつき、乱れる。分かたれたヒトの、小さき種族の中でもとりわけ小柄な女が、全身に熱傷と裂傷を負い倒れている。
「……ぁ、え……め……うそ、ど……して」
「っ……!」
その傷を、何が付けたのかが問題だ。全身に棘と鱗、頭部には歪な角を生やした大口の獣――アルケオタニア。かつて旧き時代にもたらされた終末の元凶と呼ぶべき、忌々しい異形。蹂躙しただけでは飽き足らぬ、と言わんばかりに、その獣は女を、極上の餌と見定め吠え立てる。
「お、まえが……よりにもよって……お前が、」
ぶわりと噴き上がる激情。死してゾディアークの枷からも解き放たれた今、これほどの憎悪と憤怒を抱くことがあろうとは。――それもある意味、当然か。星の意志ではなく、個として、理性など捨て去ってすべての発端を何かに押し付けることができるのならば。
「そいつに、触れるな……ッ!」
あの巨大獣をおいて他に、何があるといのだ。
感情のまま叫び手を翳せば、暗紫色の魔力が無数の槍の形となって異形の海獣へと飛んでいく。悲鳴じみた耳障りな咆哮に舌打ちをして、二発、三発と同じ魔法を叩き込む。足りない。これでもまだ、足りない。見届けると決めた命がこいつに負わされた苦痛の、倍を与えても足りるものか。
闇をもって焼き殺せと、失ったはずの『何か』が頭に、どす黒く澱んだ渦を巻いて――……。
「……だ、め」
弱くとも毅然とした声が、響く。
「止めるなッ! 私は、『私たち』はアレを――」
「もう、死んでるよ……」
熱に浮かされたように、唆されるまま高質量の星極性エーテルを放とうとしたエメトセルクを、その声だけが繋ぎ留める。そちらへ行ってはならないと、ただ、ひたむきに。
「あなたは、たとえ敵が何であっても……敗者の尊厳を貶めたりなんてしない。そうでしょう……?」
はっと息を呑んだ。真っ赤に染まった視界が、急速に元の彩度を取り戻す。
天楼の中央、事切れた獣が淡い光となって消えていく。
そうして、ローブの裾をゆるく引かれて下を見る。
「よかった……わたしの声、とどい、て……」
「なっ、お前……!」
ぐらりと傾いでいく女の体を、エメトセルクは浮遊魔法で一度支え、抱きかかえた。夥しい出血のせいか、記憶にあるよりもずっと軽い。
一刻も早く治療をしなければ危険な状態だ。
「だめ……そんなことに魔力、使ったら……あなた、消え、ちゃう……」
最も傷の深い腹部から治癒の術を施していけば、女はそう言って弱々しく首を振る。これが有り得ない邂逅だということは、瀕死の重傷を負い朦朧としながらも、理解しているらしい。
「ほう……それで、何だ? お前はこのまま犬死するとでも言うつもりか?」
彼女の言葉を、エメトセルクは看過できなかった。託した未来をまだ見届けていない。いかなる苦境にあっても、その身に余る霊極性エーテルを抱え込み化け物に成り果てようとした時でさえ生を諦めなかったかつての宿敵が、亡霊同然のエメトセルクを延命するために死にゆこうとするなど許せない。何よりも――すべてを喪った今、ただ生きて、生き抜いてほしいと切に願っている。
「っ……それ、は」
「生者は生者らしく、大人しく生かされておくんだな。それに……」
――それに、使った分は『補って』もらえばいい。
そう言おうとして、エメトセルクは口を噤んだ。とっくに死んで舞台を降りた人間が、今更生者のエーテルを喰らって存在しつづけようなどと、おこがましいにも程がある。
これ以上、生者と死者が交わりつづけるべきではない。
幸か不幸か、古の遺構と自身の遺した幻影の街があるこの海底では『見て触れることのできる幽霊』程度の存在として活動しつづけられるようだが、早々に魔力の繋がりを断ち、立ち去るべきだろう。
この女に触れて、蕩かして今度こそ、己のものとしてしまいたい――そんな欲望が少しもないと言えば嘘になるが。
「それ、に……?」
「……約束しただろう、『覚えている』と」
呑み込んだ言葉とは別の、紛れもない本心を告げる。
すると英雄はゆるりとまぶたをふるわせ、こぼれ落ちてしまいそうな淡い瞳に水の膜を滲ませた。
「なんだか、夢みたい……エメトセルクがそんなふうに、わたしに生きろと言ってくれるなんて」
溶けるような安堵を湛えた笑みは、到底、敵として討った男に向けるようなものではない。
「……ごめんね。わたし、裁定を越えられずにあなたを失望させて、手を取り合えなくて……なのに二度も助けてもらってる。一度目はエリディブスのための保険だったでしょう?今こうして、また会えたのは……わたしの未練で、わがままだよね……」
この再会を経て、否、冥界まで届いた彼女の声を聞いたときから、寄せられる想いをわかっていた。頼むから言ってくれるなと、エメトセルクは胸中で呟く。言葉にさえしなければまだ、知らない振りをして手放すことができるのだ。
「もっと話をしたかったし、助けてくれたお礼も言えないままで……それに、」
一度言葉を切り、俯いて。
再び顔を上げ真っ直ぐに己を見つめる女の、頬は紅潮し、唇は濡れて艶めいている。そうして。
「それに……わ、わたし、まだ、あなたに抱いてもらって、ない……」
告げられた想いの熱量に、眩暈がした。
慕っているとか、傍にいたいだとか、そんな生易しい情動ではなく――魂そのもので食みあうような触れ合いの更にその先を、今なお求めているのか。
諦めようと、捨てようとしていた欲望を、そうも無防備に揺り起こされては、火が点かないはずもない。
「は――ん、んんぅ、ふ、んっ……!」
衝動のままに、荒々しく口づける。小さく幼気なそこを抉じ開けて、舌を絡め取る。蕩けていく女の姿を、万に一つも誰かに見られたくはないと、熱に浮かされた頭でも辛うじて理性は働いた。ここはオンド族の拠点が近い。エメトセルクは口づけを止めぬまま、腕に抱いた女ごと、アーモロートへと転移した。
「んう、んっ、ぁ……は、んん……」
さすがに転移魔法の精度は落ちているようで、降り立った場所はいずこかの屋内ではなく、カピトル議事堂の中層階裏手にあるバルコニーだった。
「ん……は、あうっ、あ……や、だれかに、みられちゃ、」
あちら側の海底もここも、変わらず屋外であることに気づいた女は、羞恥に頬を染めて、ふるふると首を振る。
「ああ……ここから見える向こう側の景色は、在りし日を投影しただけの幻だ」
「ほ、んとう、に……? ふあっ、あ、胸だめっ」
その問いに答えてやりながら、服の上から胸を揉み、もう一方の手でスカートの下をまさぐる。ワンピースタイプの軍装は後ろ側こそコートのような丈をしているが、前がいささか短すぎる。こんなにも蕩けやすい極上の肢体を包むには不適当だという思いと、それを今、自分だけが堪能しているのだという充足感が綯い交ぜになって胸を掻き乱した。
「誰も見ている者はいないさ……よほど勘のいい泡が、紛れ込んでいない限りはな」
「そ、そんな、それって……っ」
いったい誰を想像したのか、ますます顔を赤らめるのが面白くない。しかしその悋気を理由に手酷く抱くような真似だけは、絶対にしたくなかった。
「本当に駄目だと思ったなら、私の名を呼べ……教えただろう?」
手を止め、エメトセルクは今一度、彼女の意思を問う。先へ進むことを拒絶されはしないと、予感はあった。その上で問うのは卑怯だろうかというエメトセルクの葛藤も――。
「それ、もういらない。だめな時じゃなくて、呼びたいの。あなたの、本当の名前……」
何があっても拒まないと、女は深い情でもって、すべて受け容れてしまった。
「……いいのか、本当に」
「いいよ。全部あなたの、好きにして。……あ、でも。わたしに呼ばれるのが不快なら、座の名前で呼ぶから……」
不快なはずがない。呼ばれることを厭うならば、すべてを賭して戦うよりずっと前に、真名を教えるわけがない。
「っ……あまり、煽ってくれるな。名は好きに呼べ。だがお前が『怖い』と言った時には、何があっても止める……それでいいな?」
望みを叶えてやりたいのはやまやまだが、彼女の過去を考慮すると、枷をすべて取り払ってしまうことには抵抗があった。こんなにも触れたくて堪らないのに、庇護欲が肉欲を制御している。
ああ――これを、愛と呼ぶのか。
生前認めるわけにはいかなかった、忌々しいとさえ感じた想いが、閊えることなく胸に落ちてくる。
「うん……うん。優しいんだね、ハーデス」
鈴の鳴るような声が、エメトセルクの真名を紡ぐ。
それは在りし日の旧き言語ではなく、分かたれたヒトの言葉であるのに、泣いてしまいそうなほと心地よかった。
なのに。
「何だ、今ごろ気づいたのか」
「ん、ううん、ずっと知ってた。だって、もう助ける義理なんてないのに助けに来てくれて……もうわたしに、情なんてないのに抱いてくれるんだもの……」
「は……?」
穏やかな空気から一転、冷や水を浴びせられた。
そうして気づく。女はエメトセルクの想いを理解した上で交合を求めたのではなく、彼女の一方的な思慕だと勘違いしているのだと。何て愚かな――と噴き上がりかけた怒りは、彼女に言葉の刃を向ける前に一転、自分自身に突き立った。
「……そうだな。確かに一度は、切り捨てたさ。裁定を越えられなかったお前と、お前達とは手を取り合えない。そこに個人の感情など邪魔なだけだった」
「っ……」
結論に至っていない言葉を聞いて、女はびくりと肩を震わせる。迂闊だった。どこか自己評価の低いところがあるこの女が、あの訣別を経て今、情など消え失せたと思うのも無理はない。
「だが……そうして戦った末に、私は敗れた。一度ついた決着を覆すつもりはないし……望郷の念は消えずとも、永遠の生に未練はない。つまり――」
貴石のような彼女の瞳を覆う滴が一粒、こぼれ落ちる。
「――愛している、《――》」
それは告白というより、懺悔だった。
かつての友の名でも、その座の名前でもなく、目の前の弱く小さな命を呼ぶ。
そうしてエメトセルクは、本当に死んだ。
ここに在るのはその童心が、刹那に見た夢の残滓だけだ。
「ぁ……はー、です……わたし、も」
「言うな。言えばお前を、帰してやれなくなる……」
バルコニーの縁、段差になった部分に腰を下ろし、女を背後から、膝の間に抱き込む。こちらが座し、彼女を立たせて、その上で見上げられてやっと目線が合うのだということ――あまりに体格の違う種族を抱こうとしていることを、改めて自覚させられた。
「やっ……ん、んぁ、脱がせ、方、えっちだよ……」
――そもそもこの軍装自体が、扇情的に過ぎるのだ。胸下のベルトから上、前当てだけを外せるようになっている。黒い厚手の布に覆われていたその下にインナーがあるにはあるが、シースルー生地のソレからは、肌と下着が透けて見える。そのうえ、少し意識をして再びささやかながらもしっかりと丸みを帯びた膨らみを揉んでやれば、容易に下着がずれていって、つんと尖った愛らしいばしょが見えてしまう。
「そうは言っても、好きだろう? こうして――」
万が一にも掠めて傷つけぬように、手甲に鉤爪の付いていない小指で、カリリとその突端を引っ掻く。
「あっ……あ、」
「薄布一枚隔てて、ここを弄られるのが」
「あんっ……!」
触れる前から固くなっていたそこは、爪の先で引っ掛けるたびに弾力を増していく。逃げるように転がるのを追いかけてはぴんと弾いて、指の腹でやわやわと撫でて、緩急を付け愛でればすぐに熟れる。
「キスと、少し揉んだだけで、触る前から固くして……」
「ふ、ぅう、あっ、やあっ」
「本当に愛らしいな……お前の乳首は」
「あう、あん、だ、めえ、それよわっ」
今にも達してしまいそうな、すすり泣くような甘ったるい声で女は泣く。背が仰け反り腰は揺れて、もっと弄ってほしいと胸を突き出すような格好になっていることを、当人は気づいていないのだろう。
「いう、う、すぐいっ、いっちゃ、あぁ……!」
性急に、小刻みにカリカリと引っ掻いてやれば、限界を訴えながらその言葉の通りに女は昇り詰める。正常なバランスに保たれた、清廉な彼女のエーテルが呼応するように大気中へと僅かに放出されて、酩酊を誘うような甘やかさだ。
「は……ぁ、あ……っ」
余韻に震える英雄のまろい頬に口づけ、柔くなだらかな腹部を撫でながら、ここからどうすべきかをエメトセルクは思案する。あまり前戯を長くしすぎても己が保たないが、この暴力的な体格差でもって彼女を抱くのなら、できうる限り蕩かしてやりたい。
「ふむ……なるほど」
最低でもあと二、三度は胸だけでイかせるべきか、などと、口に出せばさすがに怒られそうなことを思案する。そのためには複雑な構造の軍装、特にインナーの部分が邪魔で、丁寧にすべて脱がせるだけの時間が惜しかった。
「後で直すから見逃してくれ」
「え……な、に……? きゃあっ」
怪我をさせないよう、皮膚に掠らない位置まで引っ張ってから、透けた生地の中央に鉤爪を走らせる。縦に大きく破れたそれを左右に割り広げれば、小さくとも形の良い乳房が、ぷるんと揺れて外気に晒された。
「びっくり、したあ……破くってとこまで、先に言ってほしかったんだけど……?」
「……ああ。どうやら相当、気が急いていたようだ」
ふたつの膨らみの頂点には、さらなる刺激を求めているかのように色づいた乳首がある。
乳輪の淵からぷくりと膨らんだいやらしいかたちと、相反するような淡い薄桃色。ああ――もしあれから自慰もしていないのなら、愛撫されるのは今回が三度目か。
たった三度、エメトセルクだけがそこを、こんなにも過敏に育て上げたのだ。
「ん……っ」
手甲を外した手でその柔肉を包めば、女はびくりと肩を震わせた。膨らみの根元から輪に触れるギリギリまで、焦らすように指を往復させて、エメトセルクはその先を問う。
「さて……どうされたい?」
「あ……う、その……やっ、それやだあっ」
ぐに、と乳房に突起を押し込む。
問いかけながらも、その実、焦れていたのはエメトセルクの方だ。答えを待つだけの余裕がなかった。
「もっと、や、やさし、く、あうっ」
「強くされるのも、嫌いじゃないだろう」
「やらっ、やなの、激しくされたら……乳首イっちゃ、う」
最後は消え入るような声で、女は言う。
そのように弱味を曝け出されて、手ぬるい愛撫で済ませられるはずがない。
「ひんっ、あ、つよ、いぃ、やああっ」
更に強く、ぐにぐにと乳嘴を押し潰す。痛いだけにはならぬようにと、指を離せばあかく色づいて勃ち上がるそこへ唾液を垂らしてやわやわと撫で、緩急を付けてやりながら。
「それで、どうされたらイくんだ? こうやって押し込むのがいいのか、それとも……」
「っあ! ア、そ、れらめ、つまんで、くりくりって、ひうう、すき、すきっ……」
甘ったるく泣き濡れた声の言う通り、抓んで引っ張って、指の腹で擦り潰すのが最も好みのようだ。がくがくと脚を震えさせて、立っているのもやっとの様子でエメトセルクの腕に縋りながら、彼女は確実に昇りつめていった。
「あ、あっ、ぁあう、ん、ああんっ! ぁーっ、らえ、いっちゃ、いぅ、いくっ、は、ぁうう~~っ……!」
高らかに鳴いて崩折れる体を咄嗟に抱きとめる。短すぎるスカートの下でぷし、と水音が弾け、石畳にぱたぱたと散って染みを作る。
潮まで吹いて達したのだ、と数瞬遅れて理解が追いつき、エメトセルクはごくりと唾を呑み込んだ。愛しい女が乳首への刺激だけで、繰り返す都度淫らに果てるたびに、自身もまた僅かな切欠で暴発しそうなほど高まっている。
早く繋がりたい。どこもかしこも柔らかな肢体を揺さぶり突き立てたいと、生前から燻りつづけた欲が焦げ付いておかしくなりそうだった。
「は……んう、は……です……っ」
しかしそうするにはまだ、肝心の場所を慣らしていない。
「そろそろ、こちらも触るぞ……」
「んっ……ふ、うう、う」
もはや立っていられなくなった彼女を、引き続き胸をまさぐる左手と、ショーツの中に捩じ込んだ右手とで支える。潮と愛液とでぐしょぐしょになった割れ目を掻き分ける指が、ほんの一瞬クリトリスを掠めただけで背がしなって、ようやく辿り着いた蜜壺の内は、思い描いていたよりもずっと狭く小さかった。
「う、んんっ……あ、く、うぅっ……」
くたりと、エメトセルクの胸にもたれかかる女のかんばせに苦悶の色が滲む。これほどに濡れそぼっていようとも、指の一本だけで苦痛を与えてしまっている。当然だ。いくら彼女が成人していると言えど、ララフェル以外の成年男性と比べれば、大人と子どもほどに体格が違う。
こんなにも脆く、小さく、頑是ない体を丁重に扱ってさえ痛がっているのに――欲望に任せて破瓜させ、そのうえ性器までも無慈悲に突き立てた愚か者どもへの怒りが、改めて湧き上がる。冥府で魂を探し出し、引き裂いて、二度と転生など叶わぬよう業火で灼き尽くしてしまいたいとさえ思う。
「ハーデ、ス……? 怖い顔、してる……」
こちらを振り仰ぐ女が、こてんと首を傾げる。
「あ、ああ……すまない。その、やはり――」
「あなたが何に怒ってるか、わかるよ。でも……痛くてもやめないで」
やはり、止めるべきではないか。互いを感じる方法はそれだけではないと紡ごうとした言葉を、彼女は遮った。
「わたしが、あなたに抱いてほしいの。ここで、あいしてほしい……」
ここで、と自らの腹を撫でる指先のいとけなさに眩暈がする。羞恥に消え入るその声ごと閉じ込めるように、おとがいを掬い上げ、唇を食む。
「んぅ、ふ……んっ、んあ……っ」
絡め取った舌を擽ってやれば、痛みに強張っていた女の体から力が抜けた。呼応するように膣が緩んで、エメトセルクの指を少し奥へと誘い込み、乳首を弄ればきゅうきゅうと懐いて締め付けるのを繰り返す。
「はあっ、は、ぅん、んッ、あっ……あの、あのねっ」
口づけを解くと、混ざりあった唾液に濡れた可憐な唇をはくはくとさせて、彼女が何かを言い募ろうとする。
「うん? どうした……?」
「痛いの、よくなったか、ら、ゆび……もっといれてよくて、あうっ、それ、からあっ」
愛しい女が、恥じらいに震えながら欲望を口にする姿には大変唆るものがあるが、負担の大きい身にこれ以上何かを強いるのは酷だろう。
「なら指を増やすが、違和感があればすぐに言えよ……それから」
「ひぅうっ、あん!」
「ここを、もっとしてほしかったんだろう?」
「…って、らって、そぇされると、あっ、濡れ、ちゃうッ」
ぐにぐにと、まろい膨らみに押し込むようにして乳首を捏ねれば、彼女が口走ったとおり、二本に増やした指で更にきつくなった蜜壺が瞬く間に潤いだす。広げた指の間をとろりとエメトセルクの掌まで伝い落ち、掻き回す都度いやらしく響く水音が、次第に激しくなって。
「あ、ふ、あぁ、あっ、あーっ、ぁ~~っ……!」
びしゃりと、飛沫がそこかしこに散る。可憐な少女の形をした女が、その極上の肢体でもって、また乳首でイって潮を吹いたのだと、一拍遅れて理解した。
「ハ……本っ当に、どこまで愛らしくなれば気が済むんだ」
「ぁ、やあぁ……わた、し、また……っ」
隙間ひとつなくなるほど締まる肉襞から、エメトセルクは一度指を引き抜く。そうしてぱちん、と指を鳴らし、濡れて纏わりつく袖が邪魔な自身のローブを脱ごうとして――彼女の衣服も諸共に取り去った。
どのみち最後にはすべて脱がせることになるのだ。その手間を煩わしく感じる前に済ませてしまえば、話が早い。
「ひゃっ……や、やだあ、だめっ」
一糸まとわぬ姿に剥かれた女は悲鳴をあげてしゃがみ込み、エメトセルクのローブを肩から羽織った。情を交わした男の服を身に着けている、と言うにはあまりに体格が異なるために、その姿を見て沸き起こる感情は、興奮よりも微笑ましさが優る。
「ふむ……これでどうだ」
エメトセルクはもう一度魔術を行使して、薄紫色のショールを生成し、ローブの代わりに彼女の肩から掛けた――全くもって、こんなものは服の代わりにならないが。半透明の薄い布地から火照った体が透けて見えるのは、ある意味裸よりもいやらしい。
「どうだって……こ、これ、透けてるじゃない……!」
「裸を見られるより恥ずかしいことを、もう散々しているだろうに……」
「だって、ぜんぶ脱がされたの初めてだもの……ねえ、幻滅してない? ぷにぷにしすぎだとか、その、ぜんぜん、胸おおきくないとか……」
何を言い出すかと思えば、彼女は裸にされたことの恥ずかしさよりも、それを見てエメトセルクがどう感じるか、が気がかりらしい。いじらしいにも程がある。
「大きさは関係ない……というか、議論しても仕方がないだろう。ララフェルの中でも特に小柄な割には、まあ……ある方なんじゃないか?」
「……そ、そうかなあ」
石畳に座り込んだまま、上目遣いで不安げな女を、エメトセルクは向かい合う体勢で膝の上へと抱え上げる。別段、その姿かたちの稚さそのものに欲情する類の性癖をエメトセルクは持ち合わせていないが、慕わしく思えばこそ、どのような容姿であれ、乱れる様には昂ぶるものだ。
「個人的には、こう――」
「ひゃんっ! ふあ、あっ!」
ショールの下の柔肌に手を差し入れ、ぴんと勃ち上がった乳嘴を弾くと、再びその声が甘く蕩けだした。
「片手に収まる、というのは好ましいな。いつでも可愛がってやれるだろう」
「あッ、あぁう、も、乳首だめえっ」
しとどに濡れた女陰も、難なく指を呑み込んでいく。敏感な粒を転がすたび、奥へ奥へと誘い込むように従順に襞が蠢いて、そうしてついに――届いた。
「! ……っえ、ぁ、なに――」
「ああ……降りてきているな」
「や、だ、やあっ……はー、です、なんなの、そこっ……」
奥の奥で、きつく閉ざされた蕾が指先に触れる。抉じ開けられることを恐れながらも、開けてほしがっているかのように、ひくりとふるえる繊細な粘膜が。
「お前の子宮口が、私の指に吸い付いているんだ」
「っ……あ、や、だ、ゆびだけで……そんな、おく」
女は白皙の頬を朱く染めると、大きさの違いを確かめるようにその小さな両手で、胸を愛撫するエメトセルクの手に触れた。感嘆の息を漏らす唇が、はくはくと開いては閉じる。
「ここも、このまま指で、慣らしておくか?」
「んあぁっ、だ、め……まって、だめなのっ」
愛液を塗り込めるようにしてそっと撫でてやれば、彼女は左右に首を振った。その、何かを待ち望むような恍惚とした表情の意味を。
「おく……しきゅ、う、あけ、るなら……あなたの、ペニスじゃなきゃ、いや……」
――思い知らされただけで、危うく暴発しかけた。
本当に、この小さな命に惹かれてからというもの、ずっと翻弄され通しだ。
「は――……ッ本当に、もういいんだな……?」
「う、ん……きて、はーです……っ」
慣らしたといえど変わらず狭いそこに、猛る陰茎を押し当てる。できるかぎり痛みを与えぬよう、この交わりが彼女にとっての暴力とならないよう慎重に――ずぶりと、その温い粘膜の内へ、楔を埋め込んだ。
「あぁあっ、く……ふ、うう……!」
ほんの少し押し進めただけで、直ぐに物理的な限界に行き当たった。頑なな子宮頚部の入り口が、亀頭に吸い付き侵入を阻んでいる。
「これ、で、ぜんぶ……?」
最奥までを貫かれた女が、苦しげな声で問うてくる。目視した限り出血はないようだが、そのやわらかなかんばせに滲む汗の量は、先ほどまでの比ではない。
「いいや……三分の一、だな」
どこまで入ったのかという問いに、包み隠さずエメトセルクは答えた。いよいよ女の面差しが蒼白になる。
「う、うそ……」
「安心しろ。こんな狭い場所に、全部収めてお前を壊すような真似はしない……絶対にだ」
怯える彼女の頬を、形の良い耳を、そして髪を撫でて言い含めた。余すところなく性器を挿入すれば、確かに挿れた側だけは至上の快楽を得られるだろうが、そんな一方的な仕打ちを性交と呼びたくはない。そんなものは、知性を失った獣による蹂躙だ。
「ん……それ、すき……もっと頭、撫でて……」
乞われたとおり繰り返し頭を撫でるうちに、彼女は安心しきった表情を浮かべて、接合が深くなるのもいとわずエメトセルクの胸元に頬を擦り寄せてくる。
青褪めていた顔に血色が戻るのを見つめながら――親から子へ注がれるような愛情を受け取った記憶すら、この娘にはないのかと合点が行った。以前の生育環境がどうであれ、対人記憶をすべて失い、今の自我を得た時点で成人していた彼女に、ただ穏やかな日々の中で庇護された思い出など存在しないのだ。
「んー、ふふ……」
「っ……こら、何をして……」
楽しげな笑い声が、感傷を有耶無耶に霧散させた。甘やかな刺激が下腹部へと降りてくる。女のまろく、小さな手が、やわやわとエメトセルクの胸筋を揉んでいる。
「う、あ……や、めないか、もう」
揉む、と言ってもその手の大きさでは、どうしても一箇所を集中的に捏ねるような形になる。薄手のタートルネックを押し上げて、突端が静かに主張しはじめた。
「自分が弱いから、わたしのここ、いっぱいさわってダメにしたの……?」
元々の、己の性感帯などてんで覚えていないが、彼女に触られつづければ否が応にも『そう』なってしまうだろう。
「さて、な……慣れてきたなら、動かすぞ……っ」
だから名残惜しく思いながらも、その奉仕を制止した。
可憐な少女の形をした女が、小悪魔めいた表情を浮かべて乳首を愛撫してくる――と、いう絵面にはかなりクるものがあったが、このうえ横道に逸れるだけの余裕が、エメトセルクにはもうなかった。
「う、んっ、あ、うぅ、あッ……」
ゆるゆると抽挿を開始する。狭く小さな膣のすべてを、余すところなく味わい尽くすように。
「あぁ、あっ、ら、めぇ、こちゅこちゅってえっ」
無理なく挿入できる限界まで突けば、自然と子宮口を刺激する形になる。コツンと怒張が蕾を叩くたび、呂律の回らない声で溶けてしまいそうに鳴いて、女はいっそう強くエメトセルクに縋り付いてきた。
「は、んんっ、あい…ちゃう、あけらえひゃうぅっ」
「ああ……ああッ、開けるぞ、お前の奥を……!」
頑なな花弁を、何度も柔く捏ね回す。その温くやわらかな揺りかごの裡へ欲望を叩き付けたい――許しを得るために何度も、何度も。
「ひぐっ……う、」
やがて花開いたそこへ、僅かに亀頭がめり込んで。
「ぅ、ぁ、あーっ、あぁ~~……っ!」
「あ、ぐ……ッ!」
びくびくと全身をわななかせ果てた女の、うねる膣奥に搾り取られるようにして、エメトセルクも昇り詰めた。
「ぁん――あ……あっ……」
断続的に射精するそのたび、彼女は余韻に甘く啜り泣いて、そのいとけない子宮の奥で呑み込みきれなかった精液がとろりと、大腿を伝い落ちてくる。
「わた、しの、ぜんぶ……はーですのかたちに、なっちゃった…………きゃうっ」
精を放つと同時に注いだエーテルの影響か、恍惚と告げる彼女の左目はエメトセルクのそれを写し取ったかのように金糸雀色へと変化し、火照った肌のそこかしこに、紫黒色の蔦が絡み付いていた。――そんな様を見せつけながら愛らしいことを言われては、再び火が点かないはずがない。
「な、んれ、またおおき、くぅ、あ、あんっ!」
「……煽っている自覚がないとは、たちが悪い」
直ぐに硬さを取り戻した陰茎で蜜壺を掻き回せば、もう入らないと悲鳴があがる。それもそうだ。ならば今ひとたび、指で乱れてもらうとしよう。そうしてまっさらになった柔い粘膜の中へ、またありったけを注ぐのだ。
「安心しろ。注ぐたび掻き出して、何度でも注ぎ直して満たしてやる……」
「っだめ、そんなの……おかしくなっちゃ、う……」
蜜月はまだ、始まったばかりだ。