星降る終末の夜は、夢と消えた。
決戦の地には淡い光に包まれた朝焼けがあって、先ほどまでの激しい戦いが嘘のように、すべてが凪いでいる。
真っ直ぐに見据える先に、この手で願いを打ち砕いた相手がいる。かけるべき言葉が見つからなかった。勝者が敗者を見下さず、憐れまず、敗者が勝者を仇としない――決裂の少し前、彼が語った理想を、せめてそれだけでも体現できたのか。冒険者には自信を持って頷くことなどできなかった。
高密度エーテルの刃が穿った腹の風穴を、手甲に覆われた手が撫でる。敗北を、迫りくる死を確かめるように。そうして一歩、また一歩とこちらへ歩んできたエメトセルクは、互いに手の届かぬ位置で足を止めた。
「ならば、覚えていろ」
目深に被ったフードを外して、晴れやかな笑みと共に。
「私たちは……確かに、生きていたんだ」
そこに誰かがいたことなど嘘のように、光の粒子へと溶けて、朝焼けの中に消えていった。
ひどく穏やかな、終わりだった。
幕引きを喜ぶことも嘆くこともできず、冒険者はその場に立ち尽くす。
たった今、己の手で殺した男への想いが胸を掻き乱して、この先どうすればいいかもわからない。
取り戻した夜を、祝福しなければいけないのに。
霊災を遠ざけたことを歓喜せねば、それこそ、未来を奪った相手への侮辱だと言うのに。
「……ああ。わたし、とっくに貰ってた、のに」
最後の戦いよりもずっと前に、真名を明かされた――その意味を理解できないほど稚くはない。
けれど、それで得られるものなど、もう何も。
助けを得てなお裁定を越えられなかった時点で、応えられなかったも同然だ。
それでも最後まで、公正であろうとしてくれたひとを。
自分自身ではなくこの魂のことだとしても、まちがいなく大切に思い続けて、ずっと『敗けるな』と言ってくれていたひとを。
「なのに……全部わたしが……壊し、ちゃった……」
喪失の痛みが心を引き裂く。
涙に流せば悔恨も絶望も、僅かばかり隣で得られた安らぎも忘れてしまいそうで――痛いだけの思い出も、ひとつとして取りこぼしたくはなくて。
なのに落涙を、止めることができなかった。